日本福祉のまちづくり学会関西支部

 
セミナー

第25回 日本福祉のまちづくり関西セミナー報告  
「福祉移送サービスの新展開」

―2006年6月7日(水) 大阪社会福祉指導センター・研修室3(大阪市中央区)―

 今回のセミナーでは、道路運送法改正における今後の福祉移送サービスの動向および地域福祉交通のあり方について議論した。三星昭宏氏(近畿大学教授)をコーディネーターに迎え、1部では今後の地域福祉交通における福祉移送サービスの期待について講演、2部では現場から見た課題や今後の動向について報告があった。
 参加者は56名、交通関係、建築関係、福祉関係、研究者、行政、NPO、学生など多数の参加を得た。

コーディネーター 三星昭宏氏(近畿大学理工学部・教授)
◆1部 地域交通の担い手としての福祉移送サービスへの期待
  吉川耕司氏(大阪産業大学人間環境学部・教授)
  北川博巳氏(兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所)
◆2部 福祉移送サービスのこれから―現場からの報告―
  領家誠氏(大阪府商工労働部)
  長尾祥司氏(NPO パーソナルサポートひらかた)

 

姫野操子氏(NPO 移動サービスネットワークこうべ)・河野順子氏(NPO ポプリ)
◆はじめに   三星昭宏氏(近畿大学理工学部・教授)

 これから福祉移送サービスをどうしていくのか大きな社会課題となっており、地域交通は都市部でも過疎部でも崩壊している。また、医療福祉・介護分野でも移動の問題にはまだまだ対応しきれておらず、この福祉移送サービスは交通、福祉分野を股にかけたテーマである。福祉移送サービスとは既存の交通機関が利用しにくい人が使える交通サービスのことであり、1970年代から首都圏で広がった。その後、バス・タクシーの規制緩和、道路運送法の変更により、従来白タク行為であった福祉移送サービスに法的根拠を与えて、社会システムとして成り立たせるようになった。昨年から大阪府下でも運営協議会が始まり、福祉移送サービスを社会システムに入れ込んで、当事者の自立をいっそう促進するものと期待されている。

◆1部/地域交通の担い手としての福祉移送サービスへの期待
〈講演の様子 1〉

 

 

◇吉川耕司氏(大阪産業大学人間環境学部・教授)
 今までの交通機関というのは、電車やバスなど多くの人々を運ぶマストランジットを整備してきた。それから地域の交通整備に移り、コミュニティバスやSTSが整備されつつある。道路運送法改正による自家用自動車有償運送制度の創立については積極的に評価している。今まではお目こぼしであったものが、これが実際適法になるということは社会的に認知されるということである。公共の福祉の中に移動を支援するというカテゴリーを生み出し、地域の人的資源を具現化するものとしても有効であり、また、交通全体としても新たな時代に入っていくであろう。
 高齢者・障害者をよく見かけるまちにするためには交通だけでなく、市民の意識が変わらなければならない。また地域の交通は地域で責任を持たなければいけない。そのひとつそして福祉移送サービスが重要である。
 
〈講演の様子 2〉
 
◇北川博巳氏(兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所)
 運営協議会を通じてわかったことは、NPOでも2つとして同じものはないということ、歴史や文化、また透析患者、身体不自由者、知的障害者などユーザーも多様であるということである。運営協議会から見えてきた課題としては、都市部と過疎部が一緒に議論されていることやどこの誰が何の目的でどの交通手段を使っているのかなどの需要層が特定できずに議論が進行していることである。福祉移送サービスに社会システムとして期待する部分としては、安全な移動手段であること、地域の新しい仕組みとしての配車センター、そして第3者による評価が必要である。
 今後自治体への期待することは、福祉移送のフレーム(かたち)、安全で住民が満足するようなサービスの提供(制度)、地域力を発揮できるような(仕組み)の3つである。
 
◆2部/福祉移送サービスのこれから―現場からの報告―
 


〈講演の様子 3〉


◇領家誠氏(大阪府商工労働部)
 大阪府は府内5ブロックで運営協議会を設置し、広域的に実施している。これまで取り組んできたものとしては、運営マニュアルの作成、情報提供を一元化するためのホームページの作成、座長と幹事市町村、近畿運輸局による情報交換の場として連絡会などを設置してきた。 
 運営協議会の主な議論の内容は、移動制約者の範囲、運転者の要件、運賃などであり、移動制約者の範囲として、発達障害者はすべての地区でOK、骨折等長期にわたるかが人は一部でOK、妊婦はすべての地区でダメだという状況であった。運転者の要件としても、大阪はNPOベースの研修会が盛んに実施されており、それでOKとしている。今後の論点としは、セダンをどうするのか?すみわけ論が大きな議論になる。また、遠乗りに関するニーズが満たされていないこと、共同配車に関しても広域設置をしているため困難が生じている。利用者数の把握(需要議論)をどう整理するのか、明確なアウトカム指標や利用者の満足感を調べることなどが今後の課題である。
 
◇長尾祥司氏(NPO パーソナルサポートひらかた)
 枚方はガイドヘルパー制度でガイドヘルパーが自家用車で送迎してよいというのがあった。しかし、支援費制度によりガイドヘルプの自家用車が使用できなくなった。これが大問題になり、特区で福祉移送サービスを申請し、そこでまた大きな問題になったのがセダン車両であった。福祉車両に限定するのは問題があるという意見があり、セダン特区に申請した。そして国がヘルパーの持ち込み車両をOKにし、セダン車両の仕組みを考える小委員会で共同配車センターの取り組みを行なった。
  今後の課題は介護保険、障害者自立支援法により当事者の負担が大きくなる。利用者の範囲については、まだ枚方では挙がってきていないが、どこまで広げるかという問題がある。一時的な病人や妊婦はタクシーの客と考えられるので、そこを福祉移送サービスの利用者とするのは難しいかもしれない。また、運営協議会をまたがった広域利用の問題やそのためのルール作り、利用者登録の方法などを小委員会で議論したい。そして、常にこういった議論の出来るテーブルが必要だと考えている。
 
◇姫野操子氏(NPO 移動サービスネットワークこうべ)
 利用者の立場に立ったサービスを提供したい。“人、場所、時間が空いている団体はどこか”というところから緩やかなネットワークを作った。統一料金で窓口も一本化するのが、ネットワークを作るきっかけであった。ネットワークの事業としては、利用者から電話をもらって、“その近くなら、その障害程度ならここがありますよ”という相談事業をしている。外出支援のコーディネート、各団体への利用者の案内事業、運転研修等が主な事業である。
◇神野順子氏(NPO ポプリ)
 現在、ネットワークの加盟団体は7つで、基本的にタクシーに乗れる人はタクシーに乗ってもらうようにしている。最初は震災ボランティアから始まっている。身近なところから始めようということで、カーボランティア、それから介護保険へと進み、今では介護技術を持ったドライバーという専門技術にまでなっている。
 見えてきた問題点としては、支援側の問題と社会・制度の問題がある。支援側の問題としては、「不足する人材」、「歴史の浅い福祉車両」、「不十分な連携」、「求められる質」、「サポート体制」などが挙げられる。福祉車両の問題としては、軽自動車だけでは使いにくい面もあり、多様な車いすに対応できない車両がる。社会・制度の問題としては、「制度の壁」、「情報不足」、「利用者にのしかかる経済的な負担」、「支援団体への理解不足」などがあり、移動制約者の移動に対する公的扶助や支援団体への公的支援が必要である。
 
〈講演の様子 4〉
 会場からは、以下のような質問・意見があった。
「福祉移送サービスの中で利用者へ適正にお金を出してあげることが必要ではないか?」
○ 吉川耕司氏(大阪産業大学・教授)
利用者負担や補助の問題について、今後あるべき方向を考えていかなければならない。日本の交通事業者の場合は基本的に独立採算制であるが、福祉交通においては、まちの責任として連携をとるべきである。
○フロアより新田保次氏(大阪大学・教授)
海外ではローカルトランスポートプランを税金でやっている。日本では市民ががんばっているが、もっと公的なシステムに入れてやらなければならない。
 


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