セミナー

第38回 日本福祉のまちづくり関西セミナー報告

「みんなで語ろう、車椅子の歴史から見る ひと・もの・くらし」   

― 2012年11月17日(土)   ニチイ学館神戸ポートアイランドセンターA棟―
 今回は、日本リハビリテーション工学協会関西支部との共催で、車椅子の歴史から見た技術や暮らし、まちづくりの変遷を学ぶセミナーを開催しました。 セミナ−は、中村俊哉氏(兵庫県立福祉のまちづくり研究所)による「車椅子の変遷と車椅子が語る生活」と題した車椅子の歴史に関する講演と、30点余りの歴史的車椅子の展示見学及び解説の2部構成で行われました。スタッフを含めて81名の参加があり、活発な議論が交わされました。
◆講演/ 中村俊哉氏(兵庫県立福祉のまちづくり研究所)
 講演では、文献からリクライニング式の椅子にキャスターをつけたものと推察されるスペイン王フィリップ2世の「車輪付きの椅子(1595年)」が世界最古の車椅子であろうということや、 動力源は介助だけれど進行方向の操舵を搭乗者である王が行えるように作られていたルイ14世の車椅子などが紹介されるなど、様々な車椅子の原型とみられる乗り物から現在の車椅子に至るまでの歴史がわかりやすく解説されました。 また、最後のディスカッションでは、以前に箱根式車椅子を見た中学生から「これでどうやって電車に乗ったんですか?」という質問があったというエピソードが中村氏から紹介されました。戦後すぐの時代では車椅子で街に出ることは考えられませんでしたが、今ではそれが当たり前になっていることを示しています。このように古い車椅子から当時の暮らしや福祉のまちづくりの変遷が見えてくることが、大変興味深く感じられました。
◆展示見学
 展示見学では、歴史的車椅子を所有している車いすSIGの協力により、参加者に解説をしたり質問に答えたりと、さらに深く車椅子の歴史を学ぶ良い機会となりました。これらの車椅子を詳しく見てみると、車椅子に寄せられる要望が実はすでに以前に試みられていたり、今の車椅子にはない技術やアイデアが含まれていたりと、開発者の情熱と試行錯誤がよくわかり、これからの車椅子の開発を考える上でとても参考になりました。 参加者アンケートからも高評価が得られ、継続してやってほしいという意見や、常設でこのような歴史的車椅子を見ることができる施設が欲しいという意見も聞かれました。車椅子の歴史というテーマではありましたが、まちづくりを考える上でも参考になる部分が多くあり、有意義なセミナーになりました。
◆参加学生の感想
「今回のセミナーに参加して、昔と現代では車いすの意義が異なり、昔 はただ人を運ぶ道具であり障害者でない人も乗っていたことを初めて知 った。時代が進むにつれ考え方が変わり、それに伴い形状も変化してい た。それぞれの時代に合った車いすでも、良いところもあればブレーキ や座面などいくつか問題があると思った。私は今回見た車いすの中で、 箱根式車いすのデザインが好きだったので、もっと軽量であれば乗って みたいと思った。」
(神戸学院大学総合リハ学部医療リハ学科作業療法専攻3年・久保有紀)
「今回、『みんなで語ろう、車椅子の歴史から見るひと・もの・くらし』 に参加させていただきました。もともと僕は、車いすに興味があり、歴 史について知りたいと思っていたので良い機会でした。感想として、昔 の車いすは、その時代の使用者の思いや医療側の思いに基づいて製作さ れており、今、僕たちが目にする車いすとは全く違ったデザインがあり、 とても興味深かったです。さらに、いろいろな職種の方もおられ、たく さんの貴重なお話を聞かせていただきました。その中で一番心に残って いることが「車いすは、製造者側の目的で製作されており、実際の生活 といった連続した動作が必要とされる中では満足な生活が困難である」 ことでした。これは、実に当たり前のことですが、作業療法士という生 活にアプローチする職業では、忘れてはいけない部分であり、さらに作 業療法士が、車いすと対象者、対象者の思い、周りの環境のマッチング を行うことの必要性を改めて知ることができました。」
(神戸学院大学総合リハ学部医療リハ学科作業療法専攻3年・児嶋洋昭 )
「今回のセミナーでは、歴史的に価値のある様々な車いすを実際に見な がら歴史を見ていくことで、車いすの発展と生活の変化、また日本と海 外の変化違いを知ることができました。普段は見るコトができない貴重 な車いすばかりだったので、昔の車いすの歴史や、時代背景や用途から みる造形の理由はとても勉強になりました。特に富士山を登る時に使用 された車いすは、見た目の衝撃と登山のために工夫された様々な仕様に 感心し印象に残っています。車いすこのセミナーを通して車いすの発展 に感動し、また車いすについての興味を深めることができました。」
(神戸学院大学総合リハ学部社会リハ学科3年・岩田圭介)
「このセミナーの準備作業として、展示されていた車椅子の運搬などを させていただきました。昨今、私たちが街中で見かけるような車椅子と は形状や重さが大きく異なったものが多数あり、車椅子の歴史について 学ぶことができる貴重な時間を過ごすことができました。中でも特に印 象に残っている箱根式車椅子は、現存するものが10台も無いそうです。 そんな中で今回3台もの箱根式車椅子を拝見することができたことがう れしかったです」
(神戸学院大学総合リハ学部社会リハ学科3年・谷 定暁)
ご講演の様子
〈ご講演の様子〉
展示見学の様子
〈展示見学の様子〉

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